地下茎を持つイネOryza longistaminata

地球上には、多種多様な形態を持つ生物が存在し、独自の生存戦略・繁殖戦略を駆使して繁栄している。これは、動物に限った話ではなく、植物もまた様々な形態を示し、動物以上に多様な戦略を持っている。このような多様性は、われわれ日本人にとって身近な存在であるイネにおいても見受けられる。なんとアフリカに自生する野生イネO. longistaminataは、地面の下に地下茎を伸長させ、これによって栄養繁殖を行うのである。longi01
地下茎は竹の繁殖様式として良く知られているもので、地下で水平方向への茎の伸長が起こり、親株から離れた位置に新たな地上茎を出現させ繁茂していく。種子を介さず生育範囲を拡大できるこの方法は、限られた空間的リソースを短期間のうちに占有する上で非常に有利な形質であると考えられる。
それではなぜ、O. longistaminataは、地下茎を伸長させることができるのだろうか?いかなる環境下においても、われわれのよく知る栽培イネが、地下茎を形成することは無い。そこには、厳然たる遺伝子の違いによる形態形成機構の差が存在しているはずである。栽培イネとO. longistaminataでは、その遺伝情報に違いが存在し、そのうちのいくつかの違いが原因となって、O. longistaminataは地下茎形成能を有していると考えられる。そこで、本プロジェクトでは、O. longistaminataにおける地下茎形成能の原因遺伝子の同定に挑んでいる。

地下茎形成遺伝子を同定する社会的意義

地下茎を有する植物は、その繁殖の旺盛さからしばしば駆除困難な雑草として、農家などから邪魔者扱いをされている。地下茎による繁殖は、それほどまでに旺盛なのである。この地下茎による旺盛な繁殖力が、世界が直面する課題の解決に一役買う可能性があるのである。近年、世界中でエネルギー問題が叫ばれ、自然エネルギーや再生可能エネルギーに注目が集まっている。バイオマスエネルギーもまた重要な再生可能エネルギーの一つである。植物の同化産物から、石油の代替資源として注目されるバイオエタノールを生産するほか、木質燃料としての利用が考えられている。植物由来のバイオエタノールを実用レベルで生産するためには、いくつもの課題が山積しているが、その一つに原料の安定供給が考えられる。すなわち、大量の草本植物を毎年供給しなければならないのである。そこで、地下茎の旺盛な繁殖力が役に立つ。遺伝子組み換えにより、バイオエタノール原料植物に地下茎形成能を付与し、その旺盛な繁殖力により繁茂させ、原料の安定大量供給を実現することができると期待される。