イネ耐水性機構の解明
皆さんはイネと聞いてどのようなイメージをもたれますか?「お米がおいしい、秋の季節には稲穂がきれい」など様々だと思います。私たちも生活や研究の中で実際にお米を口にしたり、農作業をしていますので、イネに対して同じイメージを抱いています。しかし、私たちは少し変わった方向からもイネを見つめています。
イネは通常水田などの水辺で生育しています。しかし、すべての植物が水田のような環境で生きることができるわけではありません。実際、同じイネ科の雑草には、畑のように水の少ない環境では生存することができるのに、水田の中ではまるで溺死したかのように生長が妨げられる植物もいます。このことは逆にいうと、「イネという植物は水辺でも生存できるように耐水性を獲得している植物である」といいかえることができます。ここで、イネのように耐水性をもつことは、実は植物にとって非常に有利な戦略であると考えられます。
動物は喉が渇いたら水を求めて、自らの意志で動くことができますが、植物は自ら動くことができないため、生きていくのに必要不可欠な水を外から獲得しなければなりません。植物自身が外から水を獲得するとは、例えば雨水に頼るということですが、自身の水確保を雨水のみに頼るということは、逆にその地で雨が降らなければ生存できないことを意味するため、非常に危険な戦略であるといえます。一方、イネはもちろん動くことはできませんが、たとえ数日雨が降らなくても、水田のように水が溜まっている場所で生育することができます。つまり、「イネは水辺環境での生育を選んだことで、自身の生存を安定させることに成功した植物である」、これが私たちのイネに対して抱いているイメージのもう1つの側面です。
では、イネという植物はどのようにして耐水性を獲得しているのでしょうか?私たちは、drp(dripping rice leaf)という水辺では溺死してしまうイネ突然変異体を用いて、位置クローニング法(イネ染色体上のどの遺伝子が壊れているのかを調べる手法)により、イネの耐水性機構の解明を目指しています。